ドップラーレーダー データ処理の流れ

1. 処理の概要

ここで公開している「みらいドップラーレーダー データセット」は、IRIS (Vaisala Inc. Sigmet Product Line, USA) を用いて取得されたrawデータに対し、以下のフィルタ処理を記載順に実施した後、極座標系から直交座標系への変換を行い、さらに各格子の緯度経度情報を付加したものである。
ドップラーレーダー / 信号処理装置
・反射強度
・ドップラー速度*1
・位置データ
フィルタ処理

ノイズレベル近辺の信号の除去
Post Processing
フィルタ処理

低コヒーレンスデータ除去
船上構造物の影響を受けているデータの除去
スペックルノイズの除去
バイアス補正*2
DualPRF観測時のドップラー速度データの修正*3
統計的手法による2次エコーの除去
極座標系から
直交座標系への内挿処理

水平・鉛直格子間隔1km
各格子に
緯度経度情報を付加
最終アウトプットデータセット
*1:Surveillance scanでは観測せず。DualPRF(Pulse Repetition Frequency)観測時は、信号処理装置内で自動折り返し補正を実施。
*2:バイアス補正は受信機に不調が見られたMR04-01航海の一部期間のみ適用。
*3:SinglePRF観測時には適用しない。

2. フィルタ処理内容

2.1 ノイズレベル近辺の信号の除去 (IRIS Programmer's Manual, 2010; Katsumata et al., 2008)

Rawデータ取得時、以下の式でノイズ判定の閾値を決定し、ノイズレベル近辺のデータを除去している。
ここで、
Zmin:閾値 (dB)
r:レンジ距離 (km)
Zmin(1km):レンジ距離1kmにおける閾値 (dB)
Cgas:大気による減衰係数 (dB/km)
ZminCgasは、Sigmet IRIS/Open RAW format の値を利用している。

2.2 低コヒーレンスデータの除去

SQI(Signal Quality Index)は、信号処理システムRVP7の中で計算される数値で、ドップラー速度の有効・無効を判別するための閾値として使用される。SQIは0-1の値をとり、0は無相関なノイズ信号(white noise)、1は全ての信号が同じ強度である(pure tone)ことを示す。
より大きいSQIを閾値とすると、ノイズの多いbinはデータとして採用されにくくなる。詳細は、Sigmet RVP7 User's Manual (2003) の "5.2.8 Signal Quality Index (SQI threshold)" を参照(ftp://ftp.sigmet.com/outgoing/manuals/rvp7user/5algor.pdf)。

公開データ作成にあたっては、SQIが0.3以下のデータはノイズとして除去している。また、RVP7導入(MR01-K05)以前のデータはSQIが算出されていないため、この期間はSQIについてのフィルタ処理を実施しない。

2.3 船上構造物の影響を受けているデータの除去 (Katsumata et al., 2008)

マスト等の船上構造物はドップラーレーダーの電波を遮るため、それら船上構造物の影響を受けるデータを信頼できないものとして除去する。
船上構造物の影響を受けるビームでは、影響を受けないビームと比べてエコーが弱くなる。したがって、事前に多数の「みらい」ドップラーレーダー観測データを統計処理することにより、船上構造物の影響範囲を特定することができる。
公開データ作成にあたっては、統計処理の結果、他方位と比べ平均反射強度が -3dB (half power) よりも弱い方位角のデータを除去している。

2.4 スペックルノイズの除去

スペックル(斑点)ノイズであるかどうかは、当該binの周囲にデータが存在するかどうかで判断する。
公開データ作成にあたっては、ビーム方向に見た時に、データの存在が連続2binに満たない場合をスペックルノイズとして判定し、除去している。

2.5 DualPRF観測時のドップラー速度データの修正 (Katsumata et al., 2005)

信号処理装置内での自動折り返し補正では、データの少ない領域で誤補正が起こり得るため、公開データ作成にあたっては、ターゲットとするbinからアジマス方向に±2本、ビーム方向に±3kmの範囲のドップラー速度の不連続から、ドップラー速度の折り返し補正の必要性を判断し追加で補正処理を施す。ただし、折り返しは最大5回までとする。
* SinglePRFモードでは、ドップラー速度の折り返し補正は行っていない。

2.6 統計的手法による2次エコー除去 (Katsumata et al., 2005)

正常なエコーと異なり、2次エコーが存在する場合は隣り合うビームとの間に反射強度の大きな不連続が見られるという性質を利用し、2次エコーを除去する。
公開データ作成にあたっては、以下の処理を行う。
・水平方向に2dB/km以上の変化が見られるbinに対し、「2次エコーの疑いのあるbin」とフラグを立てる。
・ビーム方向5kmの範囲にこの「2次エコーの疑いのあるbin」が70%以上存在する場合、そのbinは2次エコーであると判断、除去する。

2.7 極座標系から直交座標系への内挿処理

内挿される格子点を中心とした影響球を考え、その中でガウス分布で重み付けした上で、極座標系から直交座標系への内挿処理を行う。重み付けは以下の式で表される
ここで
d:内挿点からの距離
W(d):内挿点から距離dだけ離れたデータの重み付け係数
H:半値幅
公開データ作成にあたっては、半値幅は水平方向に500m、鉛直方向に250mとした。

2.8 緯度経度情報の付加

各ボリュームスキャン開始時点での「みらい」の位置を、ボリュームスキャンデータの中心位置とする。
「みらい」の緯度経度および各格子の直交座標系での位置(X,Y)から、各格子における緯度経度を計算しボリュームスキャンデータに付加する。(X, Y)と緯度経度の変換は、ランベルト正積法で行った。この際、地球はGRS80楕円体であると仮定した。
上記の変換には、中塚(2006)を利用した。

3. 参考文献

Katsumata, M., K. Yoneyama, Y. Yuuki, S. Sueyoshi, N. Nagahama, and K. Yoshida, 2005 : Noise filtering for dual-PRF observed data from R/V Mirai shipborne Doppler radar. JAMSTEC Rep. Res. Dev., 2, 29-34
Katsumata, M., T. Ushiyama, K. Yoneyama, and Y. Fujiyoshi 2008 : Correction of Radar Reflectivity Using TRMM and Distrometer, SOLA, 4, 101-104
中塚正, 2006 : 地球物理データの解析処理・図化表現のためのライブラリ(2),地質調査総合センター研究資料集, no.442

IRIS Programmer’s Manual, 2010 : ftp://ftp.sigmet.com/outgoing/manuals/program/3data.pdf
RVP7 User's Manual, 2003 : ftp://ftp.signet.com/outgoing/manuals/rvp7user/5algor.pdf