平成17-19年度「みらい」中期観測研究計画概要
資料2
平成16年6月4日
1. 運用の基本方針
海洋地球研究船「みらい」の運用は、海洋開発審議会第4号答申「我が国の海洋調査研究の推進方策について(平成5年12月)に述べられている4つの重点基盤研究テーマ(熱循環の解明、物質循環の解明、海洋生態系の解明、海洋底ダイナミクスの解明)を推進する事を主な目的としている。実際の運航計画の作成に当っては、「長期観測研究計画(平成10年2月)」の下に3年間の「中期運航計画」が作成され、それを下に毎年の研究公募がなされる。

2. 海洋研究開発機構を取り巻く状況
 総合科学技術会議が策定した科学技術基本計画(平成13年3月)には、「科学技術は人類の未来を拓く力」として21世紀の地球変動に対応することが謳われ、その戦略的重点四分野の一つに「環境」が挙げられている。この様な下で、科学技術・学術審議会答申「21世紀初頭における日本の海洋政策」(平成14年8月)には、海洋政策の三本柱を「海洋を知る」「海を守る」「海を利用する」としており、「地球温暖化や気候変動等のメカニズム解明」が「海を知る」(海洋研究)の具体的な推進方策の柱となっている。これに沿って、海洋研究開発機構における海洋観測研究の中期目標及び中期計画は、「水・熱・物質循環過程の観測」と「地球温暖化の影響を検出し、数年から数万年規模での地球環境変動の理解」である。

3. 主要研究課題
 「みらい」の次期中期観測研究計画は、日本が進める施策や国際的状況(例えば、CLIVAR+Carbon計画)、更には海洋研究開発機構としての中期目標・計画を踏まえ、熱循環・物質循環過程の観測を中心として太平洋、インド洋、北極海域において、以下の5つの主要研究課題を推進する。


(1) 熱帯域における大気・海洋観測研究
  西部熱帯太平洋域及び熱帯インド洋域は、エルニーニョ現象、アジアモンスーンやダイポールモード現象に代表される気候変動を引き起こす大気・海洋現象が起こる場所であり、地球規模の気候変動現象を解明する鍵を握っている。そこで、H17 年度からH19年度の「みらい」の航海ではトライトンブイの維持を行い、エルニーニョの源である西太平洋からインド洋にかけての暖水プール域において、海洋および大気の熱と淡水の空間分布と時間変化を把握し、その変動機構について研究を進める。またH18年度の航海ではインド洋において降水システムの観測を主眼とした大気と海洋表層の集中的な観測を実施する。
(2) 海洋大循環による熱・物質輸送とその変動に係る観測研究
  北太平洋における大洋スケールでの貯熱量・溶存物質量と,その10年程度の時間スケールを持つ変動を定量的に明らかにするために,大陸間縦・横断高精度観測を実施する.平成17年度には、WHP P10,P3測線を平成19年度にはWHP P1測線等を観測する。また,深海通路によって北太平洋にもたらされる熱・物質輸送量の短期変動をも含めた平均値を把握するための深海通路観測(H15年開始)の係留系を回収する。
(3) 北極海域の観測研究
  夏季でも海氷の存在を可能としている北極海特有の海洋成層構造の形成過程及びそ の変動メカニズムの理解を目指す。成層構造を形成する水塊は、夏季及び冬季太平洋水、大西洋水、河川水、融氷水であり、これらの「水塊循環」の理解を中心とした観測を実施する。H18年度は、太平洋水の循環経路にあたるチャクチ海、ボーフォート海、カナダ海盆、カナダ多島海における観測を計画している。
(4) 海洋の化学環境変化の把握に関する観測研究
  気候変化に密接に関係する海洋の化学環境変化を明らかにする事を目的とし、化学トレーサーと地球温暖化関連物質分布の経年変化の把握するために、H17,19年度に大洋横断型(WOCE型)の観測を実施する。これにより、過去約10年スケールの化学物質分布状況の変化を検出し、海水循環による物質移動に関する知見を得る。また、H18に155°Eを中心とする北西部北太平洋における化学物質分布に変化を与える要因を探るための観測を行う。
(5) 北太平洋時系列観測研究
  生物地球化学的物質循環過程の季節変動が大きい北西部北太平洋で自動試料採集装置により構成される係留系を用いて時系列観測を行い、大気—海洋間の二酸化炭素交換過程の季節変動を定量化する。H17年度は北部北太平洋縦断観測により係留系観測、放射能測定、色素測定、基礎生産力測定など東西北太平洋の東西における生物による二酸化炭素吸収過程(生物ポンプ過程)に関するデータ収集を行う。H18、19年度はそれぞれ「輸出生産過程」、「物質鉛直輸送過程と生物活動」等のテーマを設定し総合的な集中観測を行う。

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