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JAMSTEC E-library of Deep-sea Images (J-EDI)

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本サイトでもご覧いただける 30年前の深海映像から
世界で初めて深海性タナイス目の行動が明らかになりました。

その研究を発表され、第一線で活躍されている
北海道大学の角井敬知先生から、
研究で使用したタナイス目の映像を解説していただきました!

タナイス目甲殻類は,主として体長数ミリメートル程度の小型水生動物です。これまでに世界から約1500種,日本近海から約120種の名前の付いた種が報告されています。タナイス類は,深海域において最も多様化した動物群の一つと言われています。しかし,恐らく小型であることが関係して,深海性タナイスの自然環境下での行動はこれまで一切報告されていませんでした。

この動画は,1992年に沖縄島東方の水深6,446~6,447メートルで実施された有人潜水調査船「しんかい6500」の試験潜航中に撮影されたものです。海底をゆっくり歩いている白い動物がタナイスになります。

この動画を含む一連の動画には,少なくとも3個体のタナイスが確認されました。動画から得られる形態情報から,それらはいずれもGigantapseudes属に属する,体長7センチメートルを超える世界最大種「エンマノタナイス」かその近縁種であることがわかりました。Gigantapseudes属はこれまでフィリピンの東方水深5,460m以深から二度報告されているだけの珍しいグループです。この動画により,日本近海にもGigantapseudes属が生息することが初めて明らかになりました。

動画中の個体はいずれも海底表面をゆっくり歩いていましたが,この動画に映った1個体については,海底に開いた穴に侵入する様子も観察されました。 このことから,本種は基本的には海底表面を歩いて生活している表在性動物だが,時に隠れ家として穴も用いる種だろうと判断されました。

興味深いことに,動画中の3個体のタナイスは,まるで両手をあげるように第4番目の脚を常に海底から持ち上げていました。Gigantapseudes属のタナイスでは,歩行に用いられていた5対の脚の末端節が細長く尖っているのに対し,第4番目の脚の末端節はへら型をしています。また,へら型の節の末端には剛毛列が観察されています。以上の形態的特徴と歩行の様子から,Gigantapseudes属のタナイスは第4番目の脚を歩行ではなく,例えば化学物質受容や姿勢制御など別の目的に用いている可能性が考えられます。

自然下の深海動物の行動をとらえた動画は,たとえ短いものだとしても,このように謎の多い深海生物の暮らしぶりについてたくさんのことを教えてくれます。

(北海道大学 角井敬知)

プレスリリース 北海道大学×JAMSTEC

両手をあげて,抜き足差し足

~約 30 年前に「しんかい 6500」が撮影した動画を活用して,深海性甲殻類の生態の一端を明らかに~